慢性嘔吐

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横浜市青葉区、都筑区、緑区、港北区、川崎市の皆さんこんにちは。
横浜市青葉区市ケ尾町にある夕やけの丘動物病院 獣医師の嶋崎です。

ここでは、犬猫の消化器疾患で多く認める「慢性嘔吐」について我々がどのようにアプローチしているのかをご紹介致します。

慢性嘔吐について

慢性嘔吐、すなわち、だらだらと長く続く嘔吐は、多くの消化器疾患の症状の一つとして現れます。一方、明らかな疾患が無くても(体質によっても)生じることがあるため、疾患の鑑別と治療のアプローチは慎重に行う必要があります。すでに何らかの治療が行われているにも関わらず、良化と悪化を繰り返している場合も多く見られます。このような場合でも、丁寧に順を追って検査と治療を進めていくことで、原因と対策を導き出すことができるでしょう。

嘔吐の機序

すべての嘔吐は、脳幹に存在する嘔吐中枢が刺激されることにより生じます。嘔吐中枢に刺激が伝わるには、大きく分けて、二つのルートが存在します。一つは、末梢感覚受容器を介したルートです。腹腔内で迷走神経に対する刺激、または胸腔内で交感神経に対する刺激、または舌咽部で舌咽神経に対する刺激により、嘔吐中枢へ刺激が伝達され、嘔吐が誘発されます。もう一つは化学受容器誘発体(CRTZ)を介したルートで、脳にある化学物質や平衡感覚の変化を感知する機構が血液中の変化を察知して嘔吐が誘発されます。

ざっくりいうと、お腹の中や胸の中、喉の付近に異常があっても嘔吐するし、何らかの毒物が体内に蓄積したり、神経系の異常でも嘔吐するということです。このように、嘔吐は、様々な原因により起こりうる症状であるため、これを正確に評価する必要があります。

急慢性嘔吐の評価と対応

1.初期評価

原発性消化器疾患と二次性消化器疾患の鑑別のため、身体検査および臨床病理学的検査(血液検査、尿検査等)を行います。慢性嘔吐を起こしうる二次性消化器疾患には、腎疾患、肝疾患、膵臓疾患、内分泌疾患、神経疾患、心疾患が含まれます。二次性消化器疾患による慢性嘔吐を生じている場合は、さらなる精査の上、その疾患に対応した治療を開始することになります。

2.原発性消化器疾患重症度分類

初期評価で二次性消化器疾患が除外された場合、重症度によって対応を変えていきます。例えば、嘔吐の他に下痢や食欲不振も併発している場合や、経過が何年も続いている場合、通常の対症療法がすでに行われているにもかかわらず症状の改善が認められない場合は重症と捉え、さらなる精査を行います。一方で、症状が軽い場合、嘔吐以外の症状が一切無く全身状態が良好な場合は軽症ととらえています。軽症の場合は、動物にストレスや負担をかけてしまうような検査を行う前に、試験的治療を行うことも選択肢の一つとして考慮します。

試験的治療

1.試験的駆虫

消化管内の寄生虫は早期に発見できることもありますが、検出率の関係で、原因の特定に多くの検査を必要とする場合もあります。検査の中には、動物の身体に負荷をかけてしまうようなものも含まれます。一方で、消化管内寄生虫感染の治療法は、駆虫薬の投与といった単純なもので、このような治療は動物への負担はほとんどありません。このようなことから、早い段階で試験的に駆虫薬を投与することも選択肢の一つと考えています。

2.食事管理

食物有害反応に対する食餌療法を試験的に行うこともあります。慢性的な消化器疾患の最大50%が食餌管理によって制御できると言われており、具体的には、新規タンパク食、グルテンフリー食、加水分解タンパク食、消化器用療法食を用います。これらの療法食を用いると、数日で症状が改善されることもありますが、最長で2週間程度、症状改善に時間がかかることがあります。そのため試験的治療の効果を判断するためには、最長2週間はこれらの食餌を継続する必要があります。

軽症例で試験的治療に反応しない場合

重症例と同様に精査を行うことが推奨されます。二次性消化器疾患の精査として膵特異的リパーゼ、超音波検査、ACTH刺激試験(またはベースラインコルチゾール値)、原発性消化器疾患の精査としてX線検査、内視鏡、開腹下の生検を実施します。これにより炎症性の疾患、閉塞性の疾患、運動障害を検索することができます。必要に応じて胃の造影検査を行うこともあります。これらの検査は、動物への侵襲性(動物への負担)が少ない順番に行い、負担の少ない検査で原因が特定できればその先の検査には進みません。

慢性嘔吐を呈する主要な原発性消化器疾患

ヘリコバクター感染

犬、猫の70%に存在し、ときに胃炎を引き起こすことで慢性嘔吐を生じます。ヘリコバクターはその症例によっては正常細菌叢の一部となり存在することもありますが、症状を呈している場合は治療対象となります。かつては、強酸性下の胃内では細菌の生存は難しいと考えられてきましたが、ヘリコバクターはウレアーゼを産生し尿素をアンモニアに変換することで胃内のpHを上げることで生存を可能としています。生検による顕微鏡観察、尿素培地でウレアーゼの産生を認めることによってヘリコバクターを検出します。このような検査を行うためには内視鏡検査が必要です。一方で、ヘリコバクターの治療は安全性が高く、動物への負担も少ないため、診断を行う前に試験的治療を開始することもあります。治療は、複数の抗菌薬療法が用いられます。

幽門洞・幽門粘膜過形成(肥大性幽門狭窄症)

胃の幽門部の粘膜の過形成により胃の停滞を引き起こします。原因ははっきりとはわかっていないものの、中年齢、純血種の小型犬に多く発生し、雌よりも雄で発生率が高いことが分かっています。診断は、バリウム造影、または内視鏡による胃の幽門部に存在する占拠性の病変の検出により行います。治療は、食餌管理(液状、ペースト状の食餌)、重症な場合は外科的切除が検討されます。

胃腸逆流症候群(胆汁嘔吐症候群)

本来胃の内圧は腸管内に比較して高く、腸管内容物が胃内に逆流しない仕組みとなってい ます。しかし、胃の運動性の低下、あるいは腸管内の炎症による腸管内圧の上昇により胆 汁酸の逆流が生じることがあります。胆汁が胃内に逆流すると、胃液に含まれるペプシン や塩酸との相互作用により胃潰瘍を引き起こします。このような機序により発生する胃の 障害を胃腸逆流症候群といいます。高齢犬に多いですが、若い犬にも起こることがありま す。内視鏡により胃の幽門付近の潰瘍病変と炎症所見を検出することで診断しますが、超 音波検査でもこのような病変の疑いがある場合には、試験的治療を検討してもよいでしょ う。治療は、食餌管理(寝る前に食餌を与える)、胃酸抑制剤、胃粘膜保護剤、胃運動促 進剤等が使用されます。

その他、腫瘍性病変による単発性の胃潰瘍や、ストレス性、薬物(ステロイド等)関連性の胃炎/胃潰瘍、神経疾患、腫瘍随伴症候群に起因する胃酸過多などが嘔吐の原因として挙げられます。

お問い合わせ

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診療時間:9:00〜12:00、16:00〜19:00
休診日:祝日の午後
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あざみ野どうぶつ医療センター

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住所:横浜市青葉区美しが丘5-13-1 GRAN hillside 欅 1F

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